「働く意義のデザイン」―就活の本質と地域から変える若者の未来―

静岡県浜松市に、「働くことを通じた自己実現」の支援を通し、就活に悩む若者のキャリアの支援に情熱を捧げる人物がいます。義務感だけで就活をしている若者たち、そして亡くした友人への思いを泣きながら打ち明けたある参加者のエピソード。そうした現場での原体験が、一般社団法人Career Vision Lab代表・長坂恭輔氏を突き動かしてきました。「何のために働くのか」というマインドセットなしに、どの会社を選ぶかを議論しても意味がない。その信念のもと、長坂氏は地元企業37社と手を組み、若者が「自分にとっての働く意義」に気づける場を創り続けています。初任給でも知名度でもなく、ビジョンと仲間で会社を選ぶ——そんな就活の本質とは何か、そして地域から日本の採用構造を変えようとする長坂氏の挑戦に迫ります。

長坂 恭輔 氏
一般社団法人Career Vision Lab 代表

株式会社長坂養蜂場 専務取締役を務めながら、一般社団法人Career Vision Labを設立。就活・採用市場の構造的な問題に向き合い、若者が「自分にとっての働く意義」に気づけるプログラムを、浜松市を拠点に展開している。

原体験と問題意識

──なぜキャリア支援・キャリア教育の領域に関わるようになったのですか? 長坂さん自身にとって、「働く」とはどういう意味を持っているのでしょうか。

そうですね。きっかけは7年前に長坂養蜂場で新卒採用を始めたことです。中期のビジョンを一緒に作っていける仲間がほしいと思い、キャリア採用から新卒採用にシフトした、その流れで合同企業説明会に出たのが、最初の原体験になりました。

そこで出会う学生の表情や話す言葉に、何かエネルギーを感じなかったんです。「早く働きたい」「こういう社会を作りたい」というよりも、もうやらなければならないからやっている、という感じで。「いい会社どこかわかりますか」って誰かに正解を聞いて、探そうとしているような印象の学生がとても多かった。

それだけではなく、当然の結果として、合同説明会の1ターン目には大手や金融・行政みたいな知名度や安定感のある企業に学生がワーッと集まって、私たちのような知名度のない中小企業のブースにはほとんど誰も座らない。どのイベントに行ってもその展開でした。ようやく3ターン目くらいになってからちらほら座って話を聞いてくれるんですが、それも特典がもらえるから来る、という感じで。興味があって座ってくれている学生さんはほとんどいませんでした。

こんな学生と出会えたらいいなとわくわくして初めて合同説明会に出たのに、全然違う現実が待っていた。学生ももっと楽しく就活すればいいのにと、純粋にそう思ったんです。そしてその状況では採用課題が全然解決できないとも感じて、自社でインターンをやろうと。それが第二のきっかけでした。

長坂養蜂場インターンはなぜ人気プログラムになったのか?

──自社でインターンを始めてから、全国的にも評価されるプログラムになるまでどんな経緯があったのですか?

最初は商品開発をテーマに約1ヶ月間、最後に社長にプレゼンして通ったら本当に商品化するというもの。それはそれでよかったんですが、5〜10人規模で1ヶ月、中小企業が労力を割いて実施することは、長く続けることが難しいと思いました。

2年目からは着想をガラッと変えて、もっと多くの学生が、商品開発に限定せず、人として、社会人として成長できるものにしようと。そこが現在Career Vision Labの成長支援型インターンシップ「Growing UP!」というプログラムの出発点です。

前提として、就業体験はやめようと決めていました。そんなのはどこでもできる、うちよりも質の高い就業体験はどこでもできますから。その代わりに、学生の成長体験を思い切り詰め込もうと。最初の合同説明会で感じた違和感があったので、何かもう少しわくわくして、感情が乗せられたインターンができたらいいなと。

大事にしたのは、うちの会社のことはいい、商品のことも別にいい、とにかくどんな学生でもこのインターンに来て、自分が本当にちょっとでも成長できたなと思える体験にしようということでした。そこに振り切ったのが、逆によかったのかなと思っています。

──プログラムの具体的な内容を教えてください。

2日間の構成で、初日はグループワークを三つやります。やることは全然違うワークなんですが、学びの落としどころはどれも共通していて、目的が共有されていなかったりそもそも目的がなかったりすると、組織ってうまく回らないよね、ということを体験します。

一つは、飛行機が砂漠に落ちてしまったときに残された12のアイテムに優先順位をつけるというもの。話し合いの中で、その場にとどまって救助を待つ前提で考えている人と、歩いて脱出しようとして順位を決めている人がいたりして、戦略とか目的がないままに議論が進んで、最後は時間がなくなって多数決に。決めることはできるけど、納得感がないまま決定されていく体験です。

もう一つ、うちで一番人気があるのが「マネージャーゲーム」です。5人チームでそれぞれミッションに取り組んでもらうんですが、実はマネージャーだけに目的が書いてあって、他のメンバーには目的がない。ルールは書いてあっても何をしていいかわからない。マネージャーは他のメンバーも目的を知っているものだと思って指示を出し始める。部下は目的がわからないまま従う。上司は「なんでうまく動いてくれないんだ」と感じ、部下は「早く指示がほしい」と待っている。最後に種明かしをすると、そもそも目的がわからなかったら質問できたよね、自分が思っていることを伝えてもいなかったよね、と気づく。

あとは、学生と社会人の違いについて僕の方からも伝えます。正解がある世界と、正解がない世界、それくらい変わってしまうよと。学生のころって、テストで点数が出て評価される減点方式じゃないですか。だからミスをしてはいけないという意識が生まれる。発表でも答えがわかってないと手を挙げない、リスクを取らない。でも社会に出ると逆で、正解なんてほとんどない中で、自らの意見や考えを意思を持って伝えていく場面が増えてくる。それを初日に伝えます。

2日目はドミノだけです。つまらない作業の連続の中で、最後やり遂げたときに「うわー」って本気で喜べる、感情が溢れてくるような達成感がある。その事実を体験を通して知ることで、キラキラしている仕事だけが面白い仕事じゃないっていうことが、スムーズに理解できるようになるんです。しかもドミノのいいところが、絶対に失敗するということなんですね。大失敗が必ず起きて、そのときにみんながどう関わり合うかで気づくんですよね。自分が失敗したときに周りが「大丈夫、大丈夫。」と応援してくれる仲間の大切さとか、逆に誰かが失敗したときに自分がそういう人間でありたいと思う、とか。

Growing UP!は初年度から口コミ評価4.99が続いていて、多少のブラッシュアップはありますが初年度からほぼ大きくは変わっていません。「作り上げるために苦労しでしょう?」ってよく聞かれるんですが、意外と一発目からいい結果が出てしまったというのが正直なところで(笑)。

──プログラムを運営する中で印象に残っているエピソードはありますか?

一番忘れられないのは、2日間のプログラムが終わって、びっくりするぐらいの勢いで立ち上がって、走り出した学生がいたんですよね。どうしたどうした?と追いかけたら、外で泣いていて。そこで彼は1週間ほど前に友人を亡くしていたことについて話してくれました。就活の中で苦しんだ末に自ら命を絶ってしまった友人だったと。「本当にこのインターンに無理やりにでも誘って連れてきてよかった。その子にも絶対別の人生があったはずだ」と、泣きながら言ってくれたんです。

やっぱりいろんなものに期待されてプレッシャーを感じて悩んでいたという話だったので。本当に自分がどう生きたいのかっていうところ、ライフステージが大きく変わるタイミングで、自分という人間がどういうふうに生きていきたいのかをそこで先に見つけていれば、本当に自分が選ぶ就活があったかもしれません。

それが僕の脳裏に焼き付いてしまって、これを一つの会社の採用活動に閉じ込めるのではなくて、もっと多くの学生がそういうことに気づける場を作っていきたい。そう思って一般社団にしてCareer Vision Labを立ち上げました。

地域・現場から見える可能性

──浜松を拠点として活動されている理由、かねてから長坂さんが着眼していらっしゃる 地域と就活の構造的な問題についてお伺いしたいです。

会社が浜松にあるというのが当然の出発点ですが、浜松は西に名古屋、東に東京と、都市圏が近くにある。学生も就職を考えるとき、地元に就職したいというニーズを持った人もいますが、面白い仕事を探し出すとそういった都市が入ってくるので、ローカルな企業が選択肢に入りづらい。これは浜松だけではなく静岡市も同じ課題だと感じています。

地域の会員企業さんのところに実際に訪問させてもらうのですが、本当に素晴らしい会社がたくさんあるんです。なんでここが採用に苦戦するんだろう?と思うくらい。こんな会社が浜松にあったんだ!と、僕自身もちょっと感激するような会社もある。本当にそういう会社を地元の学生に知ってほしいんです。

学生さんはなかなかそういった会社を知る機会もないし、就活が一斉に始まってしまうと、どうしても人と比べていい会社を定量化してしまう。初任給とか年間休日とか福利厚生の充実みたいなところで善し悪しを判断しすぎてしまう。就活全体の流れとしてもそうさせてしまっている部分があるので、学生たちはそれ以外の選択肢を知らないというところがまず問題なんですよね。

でも知らないだけで、しっかり体験すると、それぞれの「自分にとってのいい会社とは何か」に気づいたり、その道を歩み出したりということがある。そういう場作りが必要だと思っています。

Career Vision Labとしては「STAND UP!」というキャリア支援のプログラムと、合同企業文化祭「Career Vision Fes」という中小企業の魅力発信と学生との繋がりの場の二つを軸に運営しています。今は加盟企業が37社、スタンドアップはちょうど18回目を迎えて、延べ350名ほどの学生が参加してくれています。

仕事の意義

──長坂さんは、「仕事の意義」について、どのようにお考えですか?

前述のドミノを体験している学生だと、それがスムーズに入ってくるんですよね。つまらない作業の連続の中で、最後やり遂げたときに「わー!」って本気で喜べる達成感があるという事実を、体験を通して知っているから。

ただ、それって何のために本気でやっているのか?というものがないと本当にただの苦痛になってしまう。逆に言うと、それさえあればどんな部署でもいいし、どんな職種でも、どんな役割でもいい。ただ、本気で目指したいビジョンがその会社にあるのかということ。そしてそれが自分だけでなく、社長や経営層もそうですし、一緒に仕事をする仲間が本気でその社会・その世界を作ろうと思っていたら、お互いやりがいを感じながら本気でぶつかり合いながら、そこに楽しさが生まれる。

我々も、それをわかりやすくするためにビジョンをひたすら語りながら、地味な作業もバリバリやっています。そして、「何のためにこれをやるのか?」ということも常に、同時に話しています。

僕らも採用活動の中で「仲間を探している」という言い方をします。雇用する側・される側とかではなくて、本当に一緒にこの世界をつくる仲間を求めているよ、と。

日本の就活・採用構造の本質的な問題

──今の採用市場の構造的な問題について、どのように見ていますか?

今は本当に人材難がひどすぎて、企業は人がいないと成長できないという状況に迫られています。どうしても採用がゴールになりがちで、初任給をいかに高くするかということで、いろんな制度を削ってでも初任給に載せていこうというような動きが出てきていますよね。それも本当に必要に迫られてやられていることで、人材難という市場の中で生き残ろうとするがゆえに、どんどんミスマッチを生む方向に進んでしまっているのではないかなと思っています。

初任給が話題になればなるほど学生もそこに注目してくるので、条件面を満たすところを「いい会社」「幸せ」のゴールとして設定してしまいます。

学生にも質問されることがあって、初任給の話題にもなるんですけど、僕が言うのは、初任給というスタート時点で2万、3万差があったとしても、それは1年目の話で、給料というのは自分がいかにその会社に、またクライアントや社会にどれだけ貢献したかで自分で上げられる。生涯賃金を逆算した方が良いという話をよくします。スタート地点の給料で決めるのではなく、どんなキャリアを歩んでいきたいか、どんなビジョンを自分が実現したいかでその会社を選んでほしいなと。

どの企業を選ぶかとか、自社を選んでもらうかの前に、学生たちがまず何のために働くのかというマインドセットがないまま「うちの会社は」と言ってたとしても、深いところでは繋がれないだろうというのが自分たちの合同説明会での経験からすごくあって。そこに問題意識がありました。

目指す社会像と、長坂氏のビジョン

──Career Vision Labとして目指すゴール、そして長坂さん自身のビジョンを聞かせてください。

働くことを通して自己実現できる場に繋がっていくことが一番理想的なのかなと思っています。ウェルビーイングという言葉で言うとそういうところに集約されていくのかもしれないんですが、本当に会社のビジョンや理念があって、それに心から共感しているとか、惹かれているというとき、もうそれって半分その人の志でもあると思うんです。働きながら自分の使命を感じたり、本当に成し遂げたい社会を作っていくことって、働くということを通して自己実現に繋がることが間違いなくできると思っています。

ただそのためには、企業に入るとき条件面だけではなくて、ビジョンや、それを作りたいと思える仲間が本当にそこにいるのかというところがないと、それも叶わなくなってしまう。そういったところが、働くことを通してなりたい自分、目指したい社会をつくる活動をする、やりがいのある日々に繋がっていく。そうなることが、本当はすべての企業が望んでいることですし、すべての求職者・働く人が望んでいることなのだと思っています。全ての企業が、より良い社会のためにビジョンを掲げているわけですから、社会も当然良くなっていく。その重なり合う部分がどんどん大きくなれば、本当に誰も幸せに生きるウェルビーイングな社会に繋がっていくのかなというのが本当の理想です。

正直、大変なことも多くて。家族との時間も減らしてCareer Vision Labに時間を費やしてしまっているので、その点は申し訳ないなというところもあります。ただ、僕は働き方改革で残業しないことが正義みたいに言われる場合もある中で、このハードな働き方をやめたい思ったことは一度もないんです。むしろ心地がいいというか、活動を通して学生が前向きに社会進出している姿を見ると1人でも増えたらめちゃくちゃ嬉しいんですよね。それが自分にとっての幸せなんだなというのを日々感じながらやらせてもらってる、という感じです。

──最後に、若い人たちへのメッセージをお願いします。

就活の中で、本当に自分がどう生きたいのか、ライフステージが大きく変わるタイミングで先に見つけておいてほしい。他人が決める「いい会社」でも、世間が言う「いい会社」でもなく、本当に自分が選んだ会社を真剣に探すような就活をしてほしいと思います。

何のために働くのかというマインドセットがある人は、どんな部署でもどんな職種でも輝ける。大切なのは、本気で目指したいビジョンがあるかどうか、そして同じ温度感で世界を作ろうとしている仲間がいるかどうかです。知名度や初任給だけで会社を選ぶのではなくて、どんなキャリアを歩んでいきたいかどんな自分でありたいかから逆算してほしい。知らないだけで、地域には本当にいい会社がたくさんある。それを体験してほしいと思っています。

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