中学生と考える、デザイン思考による新価値創造〜アントレプレナーシップ授業レポート〜

bridge NEXTでは、静岡市のアントレプレナー育成事業「NEXT STARTUP SHIZUOKA」にご協力しています。今回は、静岡市内の中学校で中学1年生を対象に実施したアントレプレナーシップをテーマとした臨時授業の内容と、授業の設計・運用のTipsについてお伝えします。

学校教育の現場でアントレプレナーシップ教育を行う場合、多くが「総合的な探究の時間」の時間枠を使い、テーマ別の探究(PBL)、外部講師の講演、起業にまつわる様々な知識のインプット、そして今回のような体験型授業など、様々なコンテンツを取り入れます。

今回は、起業家のストーリーを織り交ぜながら、「もし自分が起業家になるとしたら?」というテーマでの体験型授業を行いました。
授業は、
①講義(概要理解)
②ワーク(実践)
③発表・フィードバック(共有と他者からの学び)
④解説(答え合わせ)
を繰り返しながら、インプットとアウトプットを繰り返す形式で行いました。

なお、下記を授業のゴールとして授業の設計を行いました。
①自己理解(自分起点)
②顧客と課題理解(共感起点とニーズ起点)
③アイデアの出し方の習得
④失敗から学ぶマインドセット

①自己理解(自分起点)

80名を4名1組のグループに分け、アイスブレイクのお題として

 ・自分の好き、楽しい、嬉しい、得意、こだわり、嫌いなど
 ・気になる身の回りの困りごとや社会課題

を共有するワークを行いました。

身の回りの課題に対する自分の考えを言語化し、共有することで自己理解・他者理解を促進することを意図したものですが、生徒たちは、「人種差別」「物価高」などの社会問題から、「交通事故で車側が悪くなることがおかしいと思う」なといった日頃の疑問など、様々な思いや考えを伝えてくれました。

②顧客と課題理解(共感起点とニーズ起点)

「やりたいこと」を起点にアイデア創発を促す場合、生徒の年次が低いほどに、持っている情報や経験の少なさから、狭い視野での発想に収まってしまいます。これに対する対策として、やりたいこと(Will)とできること(Can)を高い抽象度で言語化してもらうということを心がけます。

例えば、例外なく多く出てくる「ゲームが好き・得意」であれば、「なぜゲームが好きなのか?」を掘り下げていくと、そこにある知的好奇心であったり、段階的に目標達成していくプロセスであったり、社会的なつながりやチームワークといった、気持ちの根源的な部分が見えてくることがあります。これが、自身のWillの根源になります。

その上で、「相手視点」「共感起点」の問いを出していきます。
WillとCanの抽象度は高い方が良い反面、Need(課題)は抽象的すぎず、かつ具体的すぎないものにするよう留意します。身近な人の困りごとや体験した出来事を発想の起点に置くことで、適切な抽象度でニーズ・問いを立てることができます。

例えば、前述の「なぜ交通事故は、車側が一方的に悪くなるのだろう?」という問いは適切な抽象度であり、「どのようにすれば、人々が安心して車を運転できるだろう?」という問いが立てられるようになります。質の良いアイデアにつながる問いが出たら、そこからフレッシュな思考を活かしたアイデア創発に繋げていきます。

③アイデアの出し方の習得

今回は、時間の関係上、問いからアイデアまでを一貫させることが難しかったため、サンプルのテーマでのアイデア創発のワークを行いました。ワークでは、実際の事例をもとに自由な発想でアイデアを出してもらいました。「アイデアの質は量から生まれる」ことをふまえ、80名の生徒たちの様々な視点からのアイデアの集結・連鎖が生まれることを期待しました。

アイデア創発ワークでは2つのルールを設けます。
①批判しない
②誰かが不快になることは言わない

どんなアイデアも大歓迎とし、発言に対し敬意と称賛が生まれる、心理的安全性が十分に保たれた場にするよう心がけます。最初はなかなか発言者が出ませんでしたが、1人の面白いアイデアを皮切りに終始発言が飛び交い、会場は大きな盛り上がりを見せてくれました。驚くような発想のアイデアが次々に出る場面に、大人たちも驚きました。

実際の起業活動においては、実現に向けた過程でアイデアの妥当性を検証していきますが、今回は適切な問いの立て方と発散の手法・マインドセット理解までにフォーカスし、都度「今何を学んだか?」を振り返りながら授業を進めていきました。

④失敗から学ぶマインドセット

最後に、講師の経験も共有しながら「失敗」の捉え方について皆さんにお伝えしました。

失敗の重要性を理解してもらうことは、アントレプレナー教育において必ず伝えられる項目です。しかし、ただ「失敗を恐れずにチャレンジしよう」と言われても、なかなか簡単にできるものではありません。

ここで大切なことは、大人が挑戦している姿を積極的に見せることであると私たちは考えています。先生も新しい授業にチャレンジしていること、生徒たちと一緒に授業を作り上げていくスタンスであること、生徒を頼りにしているという本音を授業の最初に伝えます。先生も完璧ではないと理解してもらえた時に、生徒の心理的バリアが解け、主体的な学びにつながることを、これまでの多くの経験から学び、教育の現場で実践しています。

アントレプレナー教育は、まさに正解のない問いへの挑戦であり、教員の皆さん、地域の大人たち、そして私たち教育事業者は日々挑戦しています。今後も、Bestありきではなく、Betterの繰り返しで日本の教育をより良いものにしていくべく、努力してまいります。

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